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航海士・衣音くんの目測どおり、島の領海…そこから先の次の島を目指す、新しいログへという書き換えが始まる海域へと入ったのは、初夏の長いめの昼間を照らした陽が没し始めた頃合いで。深夜というほど更夜のことでもなかったその上、祭りの前夜祭の真っ只中とあって、薄闇とどさくさに紛れて入港したとて訝しがられる恐れはなかったが。埠頭から次々揚げられる花火が、何にも邪魔されずによく見える特等席だということに美人な鑑定士さんが気づいてしまったそのせいで、もとえ、そのお陰様。沖合に停泊し、朝一番に入港という段取りになったのち。
「ようこそ、シャインスター島へvv」
「今日は年に一度の星祭り。藍の宵まで、どうぞお楽しみを♪」
目映いばかりな陽光が海面に躍る中、港までを導きましょうという、水先案内の快速艇がわざわざ迎えに来てくれたほどの歓待ぶりへ。クルー一同もまた無邪気に微笑って“よろしく願います”と応じたほどで。何でも、この祭りの期間限定の埠頭が設けられているそうで、そこには既に、近場の島々から観光客を乗せて来たらしい小さめの客船や、商売の荷を積んで来たのだろシンプルな船から、シャープな外観も小粋な個人所有のクルーザーまでと、大小いろいろな船が既に停泊しており、
「お嬢さんお嬢さん、星の女王へのエントリーはあちらですよ?」
「腕に自信のある勇者さんには、薪割りコンテストもございます。」
「島の名物、エビのふかし饅頭の大食い競争は西の広場で受付中だ。
そっちは昼までで登録締め切りだからお急ぎを。」
今日ばかりは入港の手続きよりもそっちがメインの扱いなのか、担当の係官たちよりも頭数の多そうな、星型のバッヂをつけたベスト姿といういで立ちの、祭りの関係者たちが勇んで桟橋を駆け回っており。船の名前やクルーの数、滞在予定などを記入し終えての、解放されたばかりの旅人たちは、お次は彼らの手の鳴るほうへと誘(いざな)われる流れとなっている模様。結構な賞金のついた“星祭りの女王様”選びのコンテストとやらは、エントリーした女性の写真を広場の専用パネルへ張り出し、それへと各位が投票する…という、実に判りやすい方法で行われるらしく。投票権は、港の加盟店で買い物をすることで得られるところが、なかなか商売上手なもんだったりし。
「? 何でだ?」
「だから。我らがアイドルを女王様にしたくての組織票を入れたいとしても、
まずは山ほどお買い物をしないといけないだろう?」
何だ、それじゃあ金のある奴が有利なんじゃん。まあ、そういう見方もあろうけど。小さなお祭りだから、そうそうムキになって1番を狙う金持ちもいなかろうし、
「そんな格好で一等をとっても、
地元の人であればあるほど懐ろ事情も知られていようから、
金満家の関係者であればあるほど
“はは〜ん”って裏を読まれちゃうんだぜ?」
少し考えりゃあ、いかに野暮でカッコ悪いことかってのは判るだろうからさ。あくまでも、外から来たお客様に楽しんでもらいましょうって格好で運営されてるはずだよ、と。のんびりとした歩調で桟橋を進み、そこが通り道でもあった“コンテスト出場者登録受付”の前へまでと至ったベルちゃんとフレイア。登録されますか?との問いかけへ、勿論と嫣然とした微笑で応じたお嬢さんだったので。ではこちらでお写真をと、無地の垂れ幕を背景にした簡単な撮影ポイントへまでを導かれてゆき、旧式ぽかったがそれでもなかなかに性能はよさげな大型のカメラでパシャッタと撮られて はい終しまい。名前を名乗りたくない人も居ようからという配慮か、それが本人証明の代わりらしい、通し番号を大きくプリントされたバッジを渡され、
「それでは祭りを楽しんでって下さいませね♪」
笑顔で見送られて、一連の上陸手続きは完了らしい。仲間うちだからとひとつながりになって手続きを見やってた面々の背後では、大きめの客船が到着したから受付を増やせという声が飛び交っており、
「何だか思ってたより盛況なお祭りみたいだね。」
「うん。迷子にならないように気をつけないと。」
「子供みてぇなこと、言ってんじゃねぇよ。」
さっそくにも何か面白そうな出し物を見かけたか、一団の先頭から真っ先に駆け出して離れてったのが、ご多分に漏れずのキャプテンさんで、
「あ、こらっ! 言ってるそばからっ。」
せめて待ち合わせ場所を打ち合わせてからと腕を伸ばしたフレイアの手も、シャツの後ろ襟をかすめかかったが無念にも届かない。しゃあねぇなと肩を落とした衣音くんが、
「小遣いは先にもらってるし、
何となりゃあ大食い競争か何かへもぐり込むだろから心配は要らないよ。」
そうと言いつつ、でも一応は彼が追うらしく。一番後方にいて引き留め損ねたこと、多少は責任とでも思ったか。
「ベルが登録したコンテストの結果発表は広場であるらしいから、
晩にはそこへ駆けつける。そこでも落ち会えなかったら船へ直接戻るから。」
そりゃあ的確な応じを手短に告げてから、既に駆け出してた足に加速つけ、今にも雑踏の中へ紛れそうになっていた、緑のさんばら頭を追っかける航海士くんで。石畳を蹴っての軽快な駆け足の、何とも健やかにお見事だったことへとヒュ〜ッと口笛吹いて見せ、
「いやはや手慣れてるねぇ。」
「ホ〜ント。衣音がああだから、船長も甘えてるのかもしれないわよね。」
ところで はいこれと、フレイアが差し出したのは、さっきの受付で渡されたナンバリングを記したバッヂで。裏に安全ピンがついてるらしく、祭りの人込みの中を行き来するおりにその身につけていれば、エントリーしておりますよという目印にもなるらしい。とはいえ、
「あたしのはこれよ。23番。」
全く同じ型のをベルがその手に摘まんで見せたので、おおっととフレイアが目を瞠る。
「あれれ? あ、じゃあこれって次に並んでたお嬢さんのかもしれないな。」
しまった返して来なくっちゃと振り返りかかった長身痩躯のお兄さんの、淡い灰色のシャツの袖を掴み止めたのがベルの白い手。
「構わないと思うわよ。」
「え?」
なんで?と問いかける浅灰色の瞳を、そのまま誘導するように間近な看板を自分の視線を流すことで示して見せて、
「バッチもらってないんですけどって言って、もう一回登録し直せばいいみたいだし。」
観光客に慣れているのか、それともそういうトラブルが多いのか。紛失した場合の注意などなど、外地から来た人への困ったときのQ&Aが書かれた看板が、総合受付への矢印と共に目立つ配色で示されてある。
「二重登録じゃありませんかって疑われない?」
「そんなことしたって一人への票が割れてしまうだけでしょ?」
バッヂが買い物や何やへの身分証になってるとかいうならともかく、メリットは一個もないらしいから、そういうことを恐れはしないでしょうよと。箱入り娘だった割に、そういった道理や駆け引きめいたものへは、随分と聡い見解を下すベルなのを、ははあと感心しもって見やったフレイア。
「………なに?」
「いやいや、大したものだなぁと。」
二人の坊やたちとさして変わらぬ年頃で、自然現象のもたらす絶景とかちょっぴり厳しい試練なんかへ、一緒になってきゃあきゃあと大騒ぎもしているくせに。思いも拠らない 意外なところで、こんな風にしっかり者のお顔も見せる子で。屈託なく微笑った上背のあるお兄さんを見上げ、あらあらお褒めのお言葉ありがとと、小粋にウインクして見せるところも、これまた堂に入っており。
「昨日はサ、断りもなしにって気がしてちょっと腹立てちゃったけど。
しばらくは冒険家ってことでいいじゃないかって言って、
船長を丸め込んだっていう一件、
本音を言えば、あたしも賛成ではあるのよね。」
話を続けつつ、片手で器用にコインを操り、それと交換というのを手振りだけでしおおせたフレイアが。手頃な出店で買ってくれた、持て余さないサイズということだろ、イチゴくらいの大きさの棒つきアイスキャンディを“ありがとvv”と受け取って。
「だって、
海賊の名乗りを上げちゃったら、やっぱりいろいろと制約も増えるでしょ?」
いいお日和の下、思いの外 乾いていた喉を潤しながら、話を続けるお嬢さんであり。こそこそする必要まではないにしても、ジョリーロジャーを掲げた船では一般の港へは着岸しにくくなるのだろうし。航海中も…売られた喧嘩に限ってとはいえ、既にあちこちで海賊たちを伸してもいるから、手配書が回ったりした日にゃあ、
「あっと言う間に、暴れん坊だって風評も広まること間違いないわ。」
それが不名誉だと言いたい彼女かと思いきや、お手軽な価格(バウンティ)だったらそれもちょっとイヤよねと、肩をすくめるところがなかなかに豪気。さすがは、先々で海賊団になる予定だと聞かされていたにも関わらず、そんな船での旅立ちをわざわざ希望したほどの、
“お転婆さんの面目躍如というところかな?”
世間知らずな部分もなかった訳じゃあなかろうが、それでも…野卑で乱暴な大人ばかりの海賊らに取り囲まれても、ちょっとやそっとじゃあ怯まぬ度量を幾度も目の当たりにしてもいるフレイアとしては、確かに大したものよと感嘆する他はなく。
「ログはすぐにも溜まるんだって?」
「ええ。」
「補給は? やっぱりやめておく?」
お祭り騒ぎのどさくさに、物価も上がってるんじゃあないかとかどうとか。此処に着く前に彼女が口にしていたことを思い出したか、フレイアが一応という口調で尋ねれば、
「物価の話はともかく、せっかくの陸だしお祭りなんだし、
此処では すっかりと羽を伸ばしましょうよ。」
一体誰が、現地の人か来たばかりの観光客かどうかも判然としない、やたら陽気な人々で溢れ返っている街路へ達してしまえば、よほど注意して耳をそばだてなければ多少の会話は聞こえぬも同然。それで…ということもないだろが、コンテスト用のバッジを、着ていたフォークロア調のチュニックブラウスの腰あたりへと留めつけていたベルが、ふと呟いたのが、
「昨日はびっくりしたよね。
あのお子ちゃまな船長がさ、
ウチの母さんを“いい女だったんだろ?”なんて言い出すんですもの。」
何か変なもんでも食べて中(あた)ったのかって思ったほどよ、と。道の先、少し開けたようになっている三差路で鳴り響いた、道化師たちの奏でるラッパやジャンの音へ苦笑混じりに言ってのけてから、
「でもね、いい女だった母さんに、
結果 目もくれなかったルフィさんとゾロさんだったワケじゃない。」
「う…。」
あれって間接的に、もっといい男同士だったって言ってるようなもんよねぇと。返答に困るようなことを言うところがまた、一筋縄では行かない子だったりし。ちなみに、その昨日の一騒動は、
『サンジさんって、凄げぇファミレストな人だって聞いてたからさ。』
『…それも言うなら“フェミニスト”だ。』
聞いてるほうが恥ずかしいとばかり、横合いから衣音くんが訂正したのへ、そうそうそれよそれと乗っかって、
『何事へも女の人優先ていう、レディーファーストで女好きな人が、
結婚したいって思ったほどなんだからサ、
桁の違う“いい女”だったんだろうなって。』
『今度は間接的にパパまで愚弄するか、あんたはっ。』
鬼ごっこパート2が始まってしまったのは、言うまでもなかったりしたのだが。(う〜ん) それはそれとして…と、彼女もそんな話題自体は“置いといて”をしたいようで、ただ、
「ねえ、何をすれば海賊だと思う?」
不意に、そんなことを口にした。
「どっかへ届けを出すってもんじゃあなし、
かと言って、
悪事をして海軍から手配されたら…ってのも おかしな話だし。」
うむむと鹿爪らしくも腕を組んでの、考え込みまでするものだから。いきなりの話題転換には、
「…………え?」
フレイアも“どしたの?”とあまりの不意打ちに驚いて見せたものの、
「あいつらはサ。
いつぞや言ってたみたいに
“何を果たせば海賊王なのか”ってことを探ってるようだけど。」
あたしも、それが頭っからイヤだと思ってるわけじゃない。世間一般が思うような、海賊がみんな悪虐非道な連中ばかりじゃあないってのは知ってるし。それでも…それを知ろうともしない人たちから、聞く耳持たぬまま誤解されてもしょうがないってのも、重々判る。
「家族が殺されたとか、村が焼かれたとか、
何の非もないのにそりゃあ恐ろしい目に遭ってりゃあ。
たとえ、それとは同じ相手じゃなくたって、
そんな…海賊なんて輩の肩が持てるかって思うのは、
たいそう自然なことですものね。」
結局は自分が腹をくくるしかないのだろうけれど。それでもね、ただの海賊気取り、ごっこのつもりで居ちゃあ済まないことだもの。そこへの道理を、筋を立てたくて。あたしに出来る限りでのことというの、できるだけ手掛けてるのよね、と。隣に並んだフレイアを見上げて、
「島や港に着くたびに、虚実引っくるめた噂や情報話を集めてもいて。」
評判のいい海賊とそうでないのと。英雄みたいに言われてる海賊も結構いるってのが判るとね、不思議とホッとするんだもの。もう気持ちの上でも、海賊になってもいいんじゃないかってのは決まってはいるみたいで…と。くすすと苦笑するベルに、つられたようにフレイアも微笑ったものの、
「今現在の話が大事とはいえ、
つい拾ってしまうのが、ルフィさんたち“麦ワラの一味”の伝説で。」
少女の口調が、微妙に真摯なそれになったのへ、おっとと、フレイアも目許を瞬かせる。赤みの強い明るい髪が潮風に躍り、空の青をそのまま映したような水色の瞳は冴え冴えと静か。気丈夫で闊達な母と、実は短気だが繊細さでこらえる術を磨いた誇り高い父からもらったこと、自慢なのよといつか語っていた色たちが、健やかな眩しさで少女を彩っており、
「とんでもなく悪辣な海賊や非道な無法者の集団があったとして。
それを見かねたからって、
途轍もなく強い人たちが世直し的に退治したってサ、
彼らが立ち去れば残党や似たような悪が舞い戻るのがセオリーなはずが、」
だから、英雄に末長く居残ってほしいと懇願される話も珍しかないように。一時的なフォローは結局、何の足しにもならない場合も少なくはない。あんな奴らに加担しやがってと、生き残ってた残党からもっと酷い目に遭うこともあろうし、よそからもっと質の悪い連中が、流れ込んで来ないとも限らない。地盤が変わらない以上、一時しのぎにしかならない悪党退治なはずが、
「彼らが立ち去った後の土地には、そういうぶり返しは滅多にない。」
あまりに大きな騒ぎだったってことと、彼らが連絡をつけに戻って来ぬかという警戒も含めて、それまでは何もしてくれなかった海軍からの監視が入るってケースもあるらしいけれど、
「それ以上に、住人たちが、
彼らの戦いに参加してたり、若しくは何かしら感じ入ったりしてのこと、
自分らでしっかり護りを固め、
誰の土地か、誰の平和かっていう士気を上げるからなんですってね。」
現役だった頃からさして歳月が経ってる訳でもないのに、もう伝説が紡がれてるってのは、その姿をすっかりと隠してしまったからじゃあない。そこまでの影響を残せるなんて、これはもうただの暴れん坊じゃあないってことだと思わない?
ただただご陽気なだけな道行きではなかったはずで。
行く手へ立ち塞がるのは、
自然の猛威や、海軍や海賊だけじゃあない。
善良で罪のない、それはそれは無垢な存在から、
残虐なモーガニアと一緒くたにされるよな、
誇りに唾されるような誤解を受けても、怯まず腐らず。
どんなに傷を負っても、自身の信念は曲げず挫かず、
それは強くも雄々しく、
戦いの旅を続けた人たちだったに違いなく。
そんな凄っごい人たちが両親だったなんてね。つい最近まで、知らされてなかったのが口惜しいくらいよと、その割にあっけらかんと笑ったお嬢さん、
「そんな人たちがお手本じゃあね。」
あの船長が、子供なんだか いやいや実は器の大きい豪傑なんだか、そう簡単には見極められなくたってしょうがないのかしらね、と。歌うように語尾を弾ませて言ってのけたのへこそ、お腹の底あたりがむずむずと擽ったくなったフレイアさんでもあったようで。彼もまた、自分の父親にその物凄い冒険譚を聞いて育ったクチだもの。どれほどの影響力があったかは、それこそ骨身に染みて判っていること。なので、人づてに聞いた話でしか知らないのに、やれ英雄だの恩人だのという話を聞けば、やっぱり何だか…誇らしいというか嬉しいというか、そんな気分になるというのは同感で。
「そういうベルちゃんも、大したお嬢さんだよ?」
「あ〜、何よそれ。」
馬鹿にしてる。なんでだよ、褒めてるってのに。どちらもなかなかに綺羅々々しい二人連れが通るのへ。祭りのための華美な装いの、スパングルをキラチカ輝かせた踊り子さんまでが、ついつい見とれてしまったほどであり。そんなカップルへだろう、
―― よっ、お姉ちゃん投票してやんぞ、
そんないい男連れてっと票が集まんねぇぞ、
なんてなお声がかかっちゃあ周囲がどっと沸く、そりゃあにぎやかなカーニバルは、まだまだ始まったばかりであった。
おまけ 
結構なお祭りで、これが毎年のことなら、成程 名物にもなろうというほどに、港に詰め掛けていた観光客の数も随分なそれであり。そんな方々が参加した催しは、どれもが熱狂のうちに成功を収めたようで。大人の腕で一抱えはあった丸太材をいかに早く規定の本数に割るかという競争や、荒縄1本で船の主帆柱に見立てた十m以上はあろう丸太の頂上まで登る競争だとか。海の男の腕っ節を披露する戦いもあれば、島の名物、エビのすり身をたんと入れたふかし饅頭を50個も食べたおじさんが、そりゃあ大きなトロフィーと、同じお饅頭1年分の引き換え券をもらったり。あちこちで大きに沸いた様々な出し物の最後を飾ったのが、
『さあ皆様、お待ちかね。今年の星祭りの女王を、発表致します!』
島が自慢の美人から、わざわざご遠来の美姫たちまで。我こそはとエントリー下さった総数は、何と47人…っと。そりゃあ興奮気味になってた進行係のおじさまが、大きな花束やきらきらしいトロフィー、そして準女王と女王とに捧げられる白銀と黄金のティアラとを飾った壇上を指さして、昔 選ばれたことがあると、今でもお美しいアシスタントのお姉様をご紹介して、さあいよいよの本年度の女王様の発表となり………。
「あたしが女王に選ばれたのは想定内よ? ええ、そうよ。」
黄金っていってもメッキのティアラ。それでもここいらの海域で、今それをかぶっているのは美人の証しと。捧げられたそのまんま、赤毛の上へと乗っけておいでのベルちゃんで。とはいえ、そのご機嫌は、微妙に傾いているらしく。せっかくの花火も見上げぬまんま、お顔も曇っておれば、声のほうもどこか単調だったりし。というのが、
「なぁ〜んで、あんたが準女王なワケ。」
「さ、さあ…。」
あははははと、乾いた笑みを浮かべているのが、こちらさんはさすがに戴いたティアラもすぐさまどこかへ仕舞ってしまった、黒髪の航海士くんだったりするから話はややこしい。
「そういや、受け付けてたところって、
俺らが通った直後くらいに
窓口増やしますとかどうとか言って、
やたらバタバタしてなかったか?」
フレイアさんが持ってたもう1つのナンバリングのバッチが、どういう手順でそうなったのか、衣音くんを撮った写真とともに、それへの通し番号として広場にも掲げられていたのだそうで。
「あたしは男と、しかも1票差で女王を争ったの?」
そこのところがどうにも納得行かないらしいお嬢さんであるのも、まあ無理はないのかもしれないが。
「あれだ、俺ら広場の方で ちっとした喧嘩したもんだから。」
出港用意の手は止めず、だがだが、酔っ払いが出店のお姉さんへと絡んでいたのを邪魔した経緯、彼らにしてみりゃ面白かった大暴れの一部始終を。一緒じゃなかったフレイアやベルへ、身振りつきにて語り始める、やっぱり微妙に空気を読むのが苦手な船長さんへ、
「てぇーい、うるさいっ!」
「あだっ!!」
昨日放ったジョウロよりは小さかったが、重さは比じゃなかろう、金属製の優勝メダルをえいやと投げた女王様であり。何すんだ、うるさいわねっ、お祝いの品を粗末にすんじゃねぇよっ、だったらあんたが首から掛けてたらいいでしょ! なんだとぉっ!…とばかり、昨日と全く同じよな騒ぎが始まってしまった甲板で。
「何というのか、こういうのも“デジャヴ”っていうのかな。」
「あはははは。」
月のきれいな宵の中、港のあちこちでは、祭りの成功へのものだろう、祝杯挙げる歓声が聞こえており。それがそのまま、此処から漕ぎ出す彼らの航海への、惜しみないエールのように聞こえもし。月影がちりめんのように細波を光らせている海の上、ぴちゃりと撥ねたは魚か人魚か。楽しくも充実した旅が、これからも続きますように……。
〜Fine〜 10.07.10.〜10.07.14.
*何だか取り留めのないお話になっちゃったでしょうかね。
まだまだ余談を許さぬ原作様で、
そんでも海の上での話を書きたかったので、
こんな変則的なものとなってしまいました。
ルフィたちが暴れた土地ってのは、
単なる英雄が悪党退治しましたっていう“世直し”とも違う、
もっともっと大きな影響を残したと思うのですよ。
それがあちこちで輝かしい伝説になってたら嬉しいなとか思いましてvv
頑張れよ、長男坊。(先は長そうだが…。苦笑)
*今週のジャンプでは
レイリーさんが出ていたそうで。(あ、ネタバレすいません。)
途轍もない打撃を受けてしまったルフィも大変だろうけれど、
それを乗り越えるためにも、早く仲間たちと合流出来たらいいのにね。


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